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私は7年間消化器内科病棟で勤務していました。病床数は49床で、夜勤帯は3人の看護師で病棟を管理していました。

消化器内科病棟では夜間に亡くなる患者がとても多いのですが、怖いと思った忘れられない経験をいくつか挙げてみたいとおもいます。

「たかがトイレ、と思わないで」

それは私が3年目の時の出来事でした。患者は60代男性、食道静脈瘤の患者でした。状態があまり良くなく、日常生活の援助が必要な状態でしたので、ナーススーテーションに一番近いお部屋でみていました。

ある夜勤中にナースコールがあり、便がしたいと言われました。排泄時は車椅子にてトイレ介助だったのですが、夜間なのでスタッフが少なく長時間トイレにつきそうことができないことと、状態が不安定なので夜間はベッド上で排泄をお願いしたいという旨を伝え、ベッド上で差し込み便器での排便をお願いしました。

ですが、やはりベッド上ではなかなか排泄がしづらいようだったので、車椅子でトイレまで移動することになりました。病室にトイレはなく、病棟の構造上車椅子トイレも病室から離れたところにありました。ゆっくり移動し、いざ車椅子トイレへ座ってもらい、トイレのドアの外で隙間から様子を見て待っていました。

そして、トイレに患者が座ったままの状態から数分後のことです。恐れていたことがおきました。患者がいきなり咳き込んだかと思った瞬間吐血をしたのです。すぐさま他のスタッフを呼び、ベッドへ寝かせましたが、大量の吐血は止まりません。食道静脈瘤の破裂でした。ベッドのシーツは大量の出血で真っ赤に染まります。すぐさま当直医を呼び処置をしましたが、もともと全身状態も悪かった患者はそのままなくなりました。

患者の意向にできるだけ添いたいという思いと、患者の状態を見極める力の必要性と、日勤帯とは状況の異なる夜勤で、看護師がどのように判断すべきなのか、そして患者に理解してもらうべきだったのか考えさせられました。

「早く朝がきてほしい!」

次のケースは、私が6年目の頃だったでしょうか。急変とはまた違う、怖い経験です。

その日は夜勤のリーダーとして、夜間入院や他のスタッフのフォローをする役目でした。

病棟では夜間も緊急入院をとるのですが、まず準夜に入った途端に検査のお迎えの患者で院内をいったり来たりします。

そして、それらが終わった頃に合わせて1件目の緊急入院がきました。ターミナル期で状態の悪い患者を2人抱えていたのですが、1件目の入院患者の対応が終わり消灯をした直後に1人亡くなり、その2時間後にもう一人の方が亡くなりました。更に追い討ちをかけるように2時4時それぞれ緊急入院の患者がきました。文章で読んでもなんだかあまり大変なイメージが伝わりませんよね。

当時の病棟、通常であれば、死亡する患者か緊急入院患者どちらか1人いる程度が普通でした。なのに。その夜は死亡退院2人、緊急入院が3人です。

この日ばかりは流石に朝になっても業務が終わらず、朝の申し送りの最中もバタバタしていました。食事休憩を取った覚えもありません。

看護師困った顔

私が7年間病棟勤務をしてきた中でこれは1番心に残る恐ろしく多忙な夜勤でした。夜勤をしているとこんな怖い日もたくさんあります。終わらない夜勤はないんだ、朝はまた来る!と念仏のように自分に言い聞かせて朝まで走り回っていたものでした。

病棟ですし、怖い夜勤というと幽霊などの怖い状況をイメージしてしまいますが、そんなことよりも怖いことが夜間の病棟では多々起こっているというのを理解したのは、自分が夜勤をしてすぐのことでした。7年間で、恐らく650回ほど夜勤を経験しましたが、この2つが私の記憶に残る最も怖い夜勤のお話でした。